ギラン・バレー症候群

 筋肉を動かす運動神経が侵され、急に手や足に力が入らなくなる病気です。しばしば知覚神経も侵され、手足の痺(しび)れを伴います。
 風邪をひいたり下痢などの感染をきっかけに、本来は侵入した細菌やウイルス(抗原)を攻撃する体内の抗体が、誤って自分の末梢神経を攻撃することによって起こる、稀な病気です。
 症状は数日、あるいは2~4週間以内にピークに達し、その後は回復していきます。
 症状の程度は様々です。多くの場合、完全に回復し元の生活に戻れますが、中にはリハビリが長期にわたったり、後遺症が残る場合もあり、ごく一部には合併症で死亡することもあります。



 以下、若干詳しい説明。

 以下の説明では、重症の場合を前提に、症状、検査、治療など、想定される事項を広範に述べてあります。しかし、実際には、当HPの「闘病記(投稿)集」に見られるように、患者によって症状は様々で(実際には、軽症で早期に回復する割合が多く)、症状もすべて出るわけではなく、また、検査や治療も、大病院でも全て行われるわけではありません。その点をお含みうえ、お読みください。


  1.名
 1910年代にこの病気を最初に認識したフランスの内科医ギランとバレーの名前をとってギラン・バレー症候群(Guillain- Barre Syndrome)と言われています(注1

(注1) 1859年、フランスの神経学者ランドリーが下肢から上肢、頸部、胸部呼吸筋へと麻痺が上行する病気として報告したことから「ランドリーの上行性麻痺」として呼ばれ、この病気に対する症例が各国から報告されるようになりました。そうした中で1916年パリの3人の内科医、ギランとバレーとストールは、この病気では髄液蛋白は増加するが細胞数は増えないということを明らかにしました。その後この病気に対する研究が続いていますが、それ以来、「ギラン・バレー症候群」と呼ばれるようになりました(なぜかストールの名前は忘れられてしまいました)。



  2.発症率
 発症率は年間10万人に1~2人に発症する、稀な病気です。幼児から老人まであらゆる年齢層に発症し、男性にも女性にも発生しますが、男性の方が多くみられます(注2
 また、難病(特定疾患)に指定されています(注3
 なお、遺伝性の疾患でなく、感染する恐れもありません。

(注2) 世界中あらゆる地域で発生し、人口10万人あたりの年間発生率は0.61.9人前後とされています。日本における年間発生率は、1998年の厚生省(当時)の研究班の全国調査で人口10万人あたり1.15人でした。平均発症年齢は39歳で、男女比は3:2と、男性に多く見られました。
(注3) 現在、厚生労働省はギラン・バレー症候群を130ある難病(難治性特定疾患)の1つに指定していますが、難病(難治性特定疾患)のうち医療費が公的負担(=医療費補助)となる「指定難病」(平成27年1月に56種類から110種類に拡大され、医療費は全額から一部公的負担)には指定していません。



  3. ギラン・バレー症候群とその病型
 末梢神経に障害が起こり、急速に手足等の筋肉に麻痺が生じる病気です。
 神経は、脳から脊髄を通して四肢(手足)の筋肉、呼吸筋、内臓などに通じています。この脊髄から外に広がっている神経を末梢神経と言います。この末梢神経は電線のように絶縁体で覆われており、この絶縁体部分を髄鞘(ずいしょう)と言い、通電する芯にあたる部分を軸索(じくさく)と言います。
 ギラン・バレー症候群は、多くの場合、この末梢神経の髄鞘部分に障害が起こり、急速に手足等の筋肉に麻痺が生じます。この髄鞘に障害が起こった場合を脱髄型ギラン・バレー症候群と言います。
 また、髄鞘は、連続していなく、分節状になっており、分節と分節の間には小さな隙間があり、軸索部分が露出しています。このため、露出している軸索に障害が起こる場合があります。この軸索に障害が起こった場合を軸索型ギラン・バレー症候群と言います(注4)(注5
 軸索型ギラン・バレー症候群の方が重症であり、回復には時間がかかり、後遺症が残る可能性が高くなっています。

 フィッシャー症候群は、ギラン・バレー症候群の亜型(類似するが、いろいろの点で相違する疾患)とされています。症状として眼球筋麻痺、運動失調、深部反射消失の3つが現われることが特徴ですが、ギラン・バレー症候群とは異なり、四肢の筋力低下は主要特徴ではありません。

 なお、ギラン・バレー症候群では、脳や脊髄自身には障害が起こりません。したがって、脳の機能には障害が生じないため、考えることや、記憶などの機能は正常です。脳から出る短い神経も一部侵され、眼球運動麻痺や顔面の表情筋の麻痺が出ることもあります。しかし、脳から出る短い神経でも、耳や鼻への神経は侵されることはなく、聞いたり嗅いだりすることはできます。


(注4) 軸索型ギラン・バレー症候群は、欧米では稀とされていますが、日本ではある調査によると約3割を占めていました。

(注5) ギラン・バレー症候群の中で急性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(AIDP)の割合が大きいことから、ギラン・バレー症候群と急性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(AIDP)は、同義語のように言われたこともありました。しかし、上記のように、ギラン・バレー症候群は、脱髄型ギラン・バレー症候群ばかりではなく、軸策型ギラン・バレー症候群もあり、軸策型ギラン・バレー症候群には、運動神経が障害となる急性運動軸索ニューロパチー(AMAN)と、知覚神経も障害となる急性運動感覚軸索ニューロパチー(AMSAN)とがあります。そこで、現在では、これら(AIDP、AMAN、AMSAN)を併せて「ギラン・バレー症候群」と言います。



  4.原 因
 自分の抗体が、誤って自分の末梢神経を攻撃することによって生じます。
 いろいろのことが病気の引き金になっています。多くの患者(約7割程度)は、細菌やウイルス感染症が起こって、数日から数週間後に発症します。この感染症は、下痢を伴う胃腸疾患であったり、風邪であったり、咽頭痛であったりします。なお、約3割程度の患者は、下痢や風邪症状がはっきりせず、麻痺の症状から始まります。
 人体は、感染症の細菌やウイルスや異物が侵入した場合、免疫防御システムが働き、抗体がそれらの微生物(抗原)を攻撃します。この免疫防御システムが正常に機能し、抗体が侵入した抗原だけを攻撃すれば問題はないのですが、抗体が、抗原と分子構成が類似している自分の末梢神経を、抗原と見なして誤って攻撃し、しかもその誤った抗体を産生し続けることが、ごく稀に起こります(注6。このように、抗体が誤って自分の末梢神経を攻撃し続けることによって生じる病気が、「ギラン・バレー症候群」です。
 ギラン・バレー症候群は、このように自己の免疫防御システムの異常によって起こる病気であることから、自己免疫疾患(注7の一種と言われています。


(注6) 末梢神経を構成するガングリオシド(糖脂質の一種)にはGM1,GM1a、GM1b、GM2、GQ1b……などがあります。
 ギラン・バレー症候群との関連が確認されている微生物としては、カンピロバクター・ジェジュニ菌、サイト・メガロウイルス、EBウイルス、マイコプラズマがあります。
 カンピロバクター・ジェジュニ菌は、主に生あるいは加熱不十分の鶏肉やレバーについており、鶏肉や、調理中に皿や包丁など食器を通して感染するウイルスで、下痢や腹痛、発熱を起こす食中毒ウイルスです。カンピロバクター・ジェジュニ菌に感染し食中毒を起こした後にギラン・バレー症候群にかかった人の体内には、このカンピロバクター・ジェジュニ菌の膜と非常によく似たGM1を攻撃する自己抗体が増えていることが確認されています。
 また、サイト・メガロウイルスは、風邪をもたらすウイルスであり、サイト・メガロウイルスに感染し風邪をひいた後にギラン・バレー症候群にかかった人の体内には、このサイト・メガロウイルスの膜と非常によく似たGM2を攻撃する自己抗体が増えていることが分かっています。
 なお、カンピロバクター・ジェジュニ菌やサイト・メガロウイルスなどのウイルス自体は、それぞれ食中毒や風邪などに見られる典型的なウイルスであり、特別なウイルスではありません。
 カンピロバクタージェジュニ菌を引金にギラン・バレー症候群にかかった人は軸索型ギラン・バレー症候群が多く、サイト・メガロウイルス菌を引金にギラン・バレー症候群にかかった人は脱髄型ギラン・バレー症候群が多いと言われています。

(注7) ギラン・バレー症候群では、攻撃される体の部分が末梢神経ですが、その他の自己免疫疾患では、関節を攻撃する関節リウマチや、皮膚や筋肉が攻撃される皮膚筋炎などがあります。
 なお、かつては自己免疫疾患膠原病とも言われていましたが、現在では膠原病という用語はあまり用いられず、自己免疫疾患という表現に統一されています。

 このような細菌やウイルスの感染には無数の人がさらされおり、ほとんどの人は免疫防御システムが正常に働いているわけですが、なぜごく一部の人だけにギラン・バレー症候群が発生するかは不明です。
 ある免疫学の本によると、抗体は200万種類あるとされています。もちろん、1人の人に常時200万種類の抗体があるのでなく、細菌やウイルスや異物が体内に侵入した場合、その都度、抗体をつくる遺伝子が自由に組み組み合わされ、その抗原に合う抗体を産生し、抗原を攻撃する仕組みとなっています。例えば、はしかのワクチンを注射すると、体内にはしかに対する抗体ができる仕組みとなっています。
 では、なぜ自己の末梢神経を誤って攻撃する抗体が産生され、また産生され続けるのかについてですが、今のところよく分かっていません。過度の疲労やストレスがたまり、自己免疫力が極度に低下している時に、稀に生じるのではないかとする見方があります。また、体内に蓄積された薬や有害な化学物質が影響しているのではないかとする見方も一部にありますが、はっきりしている訳ではありません。
 なお、ギラン・バレー症候群が発症している時には、引き金になった抗原は、患者の体内にはすでに存在していません。



  5.症 状
 ギラン・バレー症候群の約7~8割の患者は、運動神経とともに知覚神経の障害を伴います。
 知覚神経に障害が起こった場合、最初は痺れ、びりびりする痛み、皮膚の下で蟻が這う感じ、電流の流れる感じ、振動感などの知覚異常(あるいは知覚鈍麻)が現われます。これらの知覚異常は、足、手、さらには顔面にも生じます。これらは身体の両側に起こり、通常は下肢から上肢、顔面へと上行しますが、一部にはその反対の順序で下行する場合もあります。
  2~3割の患者は、知覚神経は正常なまま、運動神経に障害が起こります。筋力が低下し、脱力感が生じます。一般的に下肢の筋肉に障害が起こると、階段の昇降や椅子からの立ち上がりができなくなり、歩行が難しくなります。上腕に障害が起こると、重いものを持ち上げられなくなります。指や手に障害が起こると、物を掴むことができなくなります。重症の場合は、麻痺が全身に及びます。しばしば筋肉自体の痛みや筋痙攣を伴います。

  運動神経障害が強い場合、呼吸筋に障害が起こり、呼吸困難となります。嚥下(えんげ=飲み込むこと)をする筋肉に障害が起こると、唾液で咳き込んだり、食べ物が飲み込めなくなります。また、表情筋に障害が起こると、能面のように表情が表せなくなり、頬の部分に食べ物が留まったり、口から出たり、また、舌に障害が起こると、呂律(ろれつ)が回らなくなり、うまく話せなくなります。さらに、眼球筋に障害が起こると、物が二重に見えたりすること(複視)があります。
 稀にですが、排尿障害や尿失禁が起こることがあります。
 自律神経も障害が起こることもあり、この場合、血圧変動(高血圧、起立性低血圧など)や心拍数変動(頻脈、徐脈)、不整脈、体温の異常が生じます。
 ギラン・バレー症候群の症状が、脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)の症状と決定的に異なるのは、筋力低下や知覚障害が身体の両側に同程度(左右対称)に起こる点です。



  6.検 査
 発症1~2週間後,髄液蛋白が増加するが、細胞数は増加しないのが特徴的です。多くの患者は,血清中に末梢神経の構成成分である髄鞘の糖脂質(前述のガングリオシドのGM1やGM2など)に対する自己抗体が検出されます。神経伝導検査で末梢神経伝導速度の遅延などの異常所見が認められます。

  髄液検査
 髄液中の細胞数、蛋白の含有量などを調べる検査で、ギラン・バレー症候群の診断をするための検査です。腰部分の背骨と背骨の間のクモ膜下腔に針を刺して髄液を抜き、調べます。海老反りになり注射針を刺されますので、痛い検査です。検査後2時間は安静です。
  抗体値検査(抗ガングリオシド抗体検査)
 血液中の特殊な抗体価を測定することで、ギラン・バレーのタイプの判断、予後の予測がつきます。
  神経伝導・筋電図検査
 末梢神経を流れる電気信号の伝達速度を測ることによって、末梢神経の損傷度合いを検査します。この検査は、手足に針を刺して電流を流して調べますので、これもかなり痛い検査です。



  7.治 療
 ギラン・バレー症候群に対して、次のような治療が行われます。
 末梢神経の損傷(麻痺)が軽く、進行が止まるようであれば、経過観察し、ビタミン剤を点滴し臥床していれば治りますが、末梢神経の損傷(麻痺)が進行していく場合は、以下のような治療が早急に行われる必要があります。
 なお、以下の治療は、末梢神経の損傷(麻痺)の進行を緩和あるいは抑制するものであり、麻痺した末梢神経を回復させる治療ではありません。麻痺した末梢神経を回復させるのは、自然治癒(自己回復力)とリハビリテーションです。
 以下の治療は、それぞれ副作用がありますので、末梢神経の損傷(麻痺)の進行がとまれば、それ以上の回数の治療は慎重にする必要があります。
 
  血漿交換療法(プラズマ・エクスチェンジ)
 血漿交換とは、人工透析のように、患者の太い血管から血液を取り出し、抗体のある血漿を除去し、輸血用の血漿を入れて、再び血管に戻す治療です。
 血液は、血漿と血球から成っています。体外に取り出した血液を血漿分離膜により血球と血漿に分離した後、抗体の含まれている血漿を全て廃棄し、代わりに献血などで集められた新鮮凍結血漿をもしくはアルブミン(血漿の一成分)溶液を補液として補充し、元の血球成分と合わせ、血管に戻す治療方法です。
 この血漿交換は、大掛かりな機械を使用するため、特別の装置が備わった病院でしかできません。
  1回につき40mlkg体重を3時間程度かけて行われます。比較的軽症で5m以上歩ける患者には2回、5m以上歩けない中症、重症の患者には4回まで行うのが適当とされ、重症の患者でも6回以上行う必要はないとされています。また、高齢者、小児、体重40kg未満、自立神経障害のある人、循環不全、腎障害を認める患者には、この療法は適さないとされています。
 実際、この治療は、体内の血液を多量に入れ替えるものであるため、副作用として、拒絶反応が出ることもあり、体が興奮し、体力を著しく消耗させます。感染症を起こすこともあります。また、血漿交換している間、血圧が急に下がったり、心拍数が上がったりすることがあります。
 この療法は、発症後早急に行った方が効果があります。発症後2週間以内に実施した場合に効果があり、発症後30日以降に行った場合には効果は認められないと言われています。

  ガンマ・グロブリン(免疫グロブリン大量療法、IVIG療法)
 ガンマ・グロブリンは、献血など他の人の血液からとった抗体を集めた無色透明の液体で、血液製剤の一種です。このガンマ・グロブリンを静脈に大量に注入(点滴)し、免疫異常を改善するものです。

 メカニズムはよく分かっていませんが、患者の免疫システムを刺激、抑制、調節することにより症状の進行を抑えると見られています。上記の血漿交換療法と同程度の効果があると報告されています。
 400mg/kg/日を46時間かけてゆっくりと点滴されます。この点滴を5日間連続して1クールとして注入します。症状の進行がとまらなければ、1週間空けて、さらに次のクールが繰り返されます。
 この治療法は、わが国では2000年に厚生省(当時)により許可されました(それ以前は健康保険の対象外)。血漿交換のような大掛かりな設備を必要とせず、どこの病院でも治療ができ(点滴のみ)、効果の差もないと言われています。
 しかし、血漿交換のような強い副作用がないものの、頭痛、筋痛、血栓の他、肝機能障害を併発し易いという副作用が報告されています。

  副腎皮質ステロイド
 副腎皮質ステロイドは非常に有効な抗炎症薬ですが、種々の副作用を来たす可能性があります。ギラン・バレー症候群は末梢神経が炎症を起こす病気とされていますので、従来ステロイドが有効とされていました。
 しかし、最近の臨床試験では、経口投与、静注療法ともにほとんど効果が認められなく、むしろ疾患を悪化する懸念が出てきたことから、通常は使用されなくなりました。

  合併症などに対する治療
 ギラン・バレー症候群に伴う呼吸不全に対して、酸素吸入や、重症の場合は、経口気管挿管や気管切開しての人工呼吸器管理を必要とします。また、気管チューブを通して痰の吸引が行われます。
 嚥下困難のため経口摂取困難の場合、点滴、経管による栄養管理を必要とします。
 排尿困難に対し、カテーテルによる導尿などの処理がされます。
 また、長期臥床により肺炎、下肢の血栓症、膀胱炎などを併発することがありますので、そのための治療も必要となります。褥瘡(じょくそう=床ずれ)を防ぐため、2時間以内の体位交換が必要とされています。
 なお、回復過程において神経再生に伴い痛み(典型的には手足に焼けるような痛み、あるいは刺すような痛み)が生ずることがあります。これは、知覚神経が治癒する過程で起こる異常感覚の一つの型と見られています。運動や体重の負荷により増悪しますので、この間は、後述のリハビリテーションが思うようにできなくなります。種々の鎮痛剤や抗うつ剤、抗けいれん剤の服用によって、その痛みが抑えられます。



  8.リハビリテーション
 麻痺した手足の機能を回復させるのは、自然治癒(自己回復力)とリハビリテーションです。末梢神経の損傷(麻痺)の進行が止まった段階で、急性期における治療(血漿交換療法やガンマ・グロブリン等)に代わって、筋肉の萎縮や関節の拘縮を防ぎ、麻痺した手足の機能を回復させるためにリハビリが行われます。
  リハビリは、急性期における病院でそのまま行われる場合もありますが、治療段階が終わり、その病院でリハビリが十分に行われない場合には、リハビリ専門の病院に転院して行われます。
 主治医の指示の下で、理学療法士、作業療法士がメニューを組みリハビリを行います。

 なお、長期臥床の患者にとっては、筋肉の萎縮や関節の拘縮を防ぎ、後遺症を少なくするために、早い段階から理学療法士による手足の曲げ伸ばしとマッサージが必要です。

  PTPhysical Therapy)=理学療法
      個々筋肉の筋力回復や関節の動きの改善を目指します。
  OTOccupational Therapy)=作業療法
      日常生活に必要な動作(食事、筆記、歩行など)ができるように、具体的な作業
      の訓練を行い、患者が元どおりの生活に復帰することを目指します。


リハビリは、しばしば脳梗塞など他の患者と一緒に限られた時間で行われますが、与えられたメニューを受身で行っているだけでは、それだけで終わってしまい、回復が遅れ、後遺症となる怖れもあります。この病気の患者のリハビリは、脳梗塞など他の患者のリハビリとは異なり、手足の機能回復を目指すもので、きわめて重要です。
 少しでも自分からリハビリができるようになったら、理学療法士からリハビリの基本的なルールとやり方を教えてもらい、病室でも、「絶対に回復させる」との信念で、自ら積極的にリハビリに取り組まれることを、自戒をもってお勧めいたします。「とくに重症者の予後はリハビリ次第」と、私は思っています。
 詳しくは、当HPの「関連情報集」の「ギラン・バレー症候群とリハビリテーション」をご覧ください。
 
  リハビリ病院への転院について詳しくは、同じく「関連情報集」の「リハビリ病院への転院とリハビリ病院選び」をご参照ください。



  9. 経 過
 ギラン・バレー症候群の症状は、遅くとも1ヵ月以内にピークとなり、その後徐々に自然に回復に向かいます。多くの患者は、予後は良好で、6~12ヵ月で自然治癒しますが、重症の患者の場合、麻痺や痺れ、筋力低下などが長期にわたったり、それらが後遺症として残ることがあります。

 回復は、麻痺した順番と逆の方向に進みます。また、重症であった箇所ほど、回復には時間がかかり、後遺症が残る可能性が高くなります。
 予後について、次のように報告されています(注8

  50-90%  最終的には完全に、またはほぼ完全に回復してもとの生活に戻ります。

  5-15%   高度で長期にわたるリハビリを必要とします。

  5%以下  肺(呼吸)、心臓、血管(心血管)、血栓、感染症などの合併症で死亡
        します。

 なお、一般的に、1.早期に治療が行われるほど、2.症状が軽症であるほど、3.年齢が若いほど、予後はよいようです。

 逆に、症状の回復が不良な患者としては、1. 年齢が60歳以上、2.キャンピロバクター・ジェジュニ菌(本解説の注6参照)の先行感染がある、3. 口咽頭筋麻痺がある、 .人工呼吸器が必要である、5. 電気生理学的に軸索障害の所見あるいは複合筋活動電位振幅の消失がある、 .発症から治療開始までに2週間以上を経過した、などがあげられます。(東海大学吉井文均教授の指摘)

(注8) かつては「ギラン・バレー症候群の予後は良好で、元の状態に回復する」とする医学解説書もありましたが、残念ながら、上記の報告のように、「高度で長期にわたるリハビリを必要とする」や、「後遺症が残る」や、「合併症で死亡する」も、それぞれある割合であります。



  10.再 発
 再発率は110%と報告されていますが、多くても5%未満のようです。

 なお、ギラン・バレー症候群にかかった人は、抗体が再び誤って反応するおそれがありますので、インフレエンザ・ワクチンの接種は避けた方がよいと言われています(注9

(注9) これに関して、横浜市感染症情報センターでは次のように述べています。
 「ギラン-バレー症候群に以前かかったことがある人では、ギラン-バレー症候群の発生率が高いので、インフルエンザワクチンの接種は慎重に検討した方が良いでしょう」
  一方、難病情報センターでは次のように述べています。
 「一度ギラン・バレー症候群に罹患したことをもって、インフルエンザの予防接種をひかえた方がいいという根拠はないと思います。ただ、一般論として、インフルエンザの予防接種により、ギラン・バレー症候群に限らず予期せぬ副作用がでる可能性は否定はできません。このことには留意しておく必要があります」



  11.予 防

 この病気に対する予防策は、ありません。


すべての文献、資料には、上記のように「予防策はなし」とされていますが、私の体験では、ギラン・バレー症候群が自己免疫疾患の一種であることから、過度の疲労やストレスを避け、バランスのとれた食事と休養をとり、年齢相応の運動をし、前向きな思考で規則正しい生活をして、日頃から自己免疫力を高めていれば、自己の免疫防御システムが正常に働き(異常が起こることはなく)、この病気にはかからなかったと思っています。再発についても同様です。



 当解説は、ギラン・バレー症候群患者の一人として、次の資料をベースとし、入手できるインターネット情報、文献を参考にしてとりまとめました。

 ・国際ギラン・バレー症候群財団『ギラン・バレー症候群 一般向け手引き』
 ・日本神経治療学会・日本神経免疫学会合同『ギラン・バレー症候群・慢性炎症性
  脱髄性多発ニューロパチー 治療ガイドライン』

 当解説が、この病気について知りたいと思う方々(患者本人、そのご家族、友人など)にとって、お役に立てば、幸いです。


                        (文責=当HP管理人)

追 記
 ご家族や友人にできる介護については、当HPの「関連情報集」の「ご家族・友人にできる介護・介助」にまとめましたので、是非ご覧ください。